交換留学 ドイツ

はじめに

この記事は慶應義塾大学の派遣交換留学を使ってドイツのアーヘン工科大学に留学をしている筆者の留学体験記です。まだ留学をして3ヶ月しか経っていないのですが、何らかの形で自分の意見をまとめたいと思っていたところ、KCSでアドベントカレンダーを書く人を募っていることを知り、せっかくなので書こうと思った次第です。詳しく聞きたい場合は、慶應の国際センターが出している留学報告書に私のメールを貼ったのでそちらから連絡してください(KCSの方はdiscordでDMを送ってください、おそらくLT会でも同じような内容を話すつもりなのでそのテーマを話している人です)。

また、この記事は留学に行きたいなと考えている人、実際に交換留学の出願を進めている人向けに書いています。できる限り正確な情報を書くように心がけますが責任は取れないのであくまで参考程度にするようにしてください。

この記事の構成は時系列順に留学前、留学準備期間、留学が決まってから、留学中の4つの章から成り立っています。

留学前

私は昔海外に住んでいた経験があるためずっと留学を夢見ていました。また一貫校出身のため、慶應義塾一貫校教育校派遣留学制度というプログラムに応募することも検討しましたが高校1,2年の段階でTOEFL90点を求められたり、一貫校(塾高、女子高、志木高、sfc高)の中での選抜が行われるなど要求がかなり高いことから諦めました。

さて、慶應義塾大学に進学することが決まっていた高校3年の最後の方に大学生になった時の目標を決めようと思い色々考えていました。一貫校教育派遣留学制度に出願すらできなかったのが少し悔しかったことが引っ掛かり、留学に行こうと決意したのが交換留学に出願することになったきっかけです。

そんなこんなで留学することを決意したのですが実は留学は1年前にする予定でした(今は学部3年のため学部2年次に留学する予定だったということです)。学部2年次での留学となると学部1年の夏(締切は毎年9月末だったと思います)に出願の準備をすることになります。留学出願に必要なことは後述しますが理工学部1年生が翌年度の留学を考える場合は進学するであろう学科を予測して留学の計画を立てます。当時の私は遡及進級(留学をしても進級できる制度)を希望していたので、学部2年次からの留学をすることで留年が確定するのかをケアする必要がありました。そこで慶應の国際担当に問い合わせて私が学部1年次に所属していた学門から進学することができる学科全てに確認をとりました。当時第一志望のJ科に問い合わせたところ、J科は留年をしないといけないということを伝えられます(*後述)。9月の中旬の時点で語学のスコアもクリアし出願書類を書き始めていたのですが、念の為のはずの確認でまさかの留年確定の烙印を押され途方に暮れました。当時はとにかく早く留学をして海外を経験したいと思っていたので唖然としていました。J科に入れなかった場合を想定して他の学科にも問い合わせていたのですが他の学科は(基本的には)問題はないと回答され、しかもある一つの学科からは説明をするからとわざわざZoomまで用意してくださるなど非常に丁寧な対応に感銘していた(今でも面談をしてくださった教授のお名前を覚えています)のと同時に留学に行くために別の学科に進学しようというような目的と手段を見間違える行動をとろうと検討したくらいにはがっかりしました。結局1年後にまた出願し直すという結論を取りましたが、やるせない気持ちでいっぱいでした。

*ちなみに同じ境遇にあうかもしれない後輩のために助言をしておきますが 、J科2年から留学をしても留年をする必要がない可能性があります。前例がおそらくなさそうなので本当にできないかもしれませんが、実は国際センターの方に誤った回答をされたのです。そもそも遡及進級とは以下の通りに事が運びます。まず留学を行く前に学科の学習指導の先生と面談を行なった上、学科全体の会議にようなものでその子について話し合われその子に遡及進級をする権利を与えるかどうかが話し合われます。したがって学習指導の先生に留学の質問をする必要があるのですがそこで学習指導とは関係のない別の先生を紹介されたのです。学科配属が決まってから行われた2年生の説明会で当時は知らない先生が出てきた上に"J科は留学を推進しています"との旨の説明や"遡及進級は可能です"という説明をしていたのを聞いて驚きました。結局説明会を進行していた先生が留学などの相談に乗ってくださる学習指導の先生で大学1年の9月に国際担当から紹介された先生は全く関係ないことが判明したのです。当時はその先生の推測を答えられただけでした。したがって 学習指導の先生であるかをしっかり確認した上で 質問・相談をするようにしましょう

そんなトラブルに見舞われながらも学部2年の夏を迎え、満を持して留学出願にとりかかりました。

留学準備

ここの章では主に留学の出願について説明をするつもりです。留学のプロセスなどに興味ない人はさらーっと読み流してもらって構いません。留学出願のタイミングで私は留学に出願する人たちのサンプルデータが欲しかったのをとてもよく覚えているので一つのサンプルとして(すこしぼかしながら)載っけておきます。

留学の出願は主にGPA、外国語の証明、大学の志望理由と留学計画からなります。

GPA

私は留学に行きたいと早くから心に決めていたのに、学部1年の春にテストをなめて受けたところボロボロのGPAをとりました。結局1年秋学期に多少巻き返したので2年春学期終了時の出願のタイミングでは、累積GPAは3.0ちょうどくらいだったと思います。今交換留学をしている友人から聞く限りではGPAは2.5〜3.5の範囲に収まってきますが、多数派は3.0付近かと思います、また理工学部は学部1年次に行われる学科振り分けが原因でGPAを上げることが他学部より難しいと思っていますが交換留学ではそんなことは考慮されません。全学部、全学年との勝負をする必要があります。

またアメリカやイギリスに行きたい場合は特にGPAが高くないと受からないというのが通説です。私の出願した代では理工学部からイギリスに行った人は0人、アメリカに行った数名の友人はかなりGPAが高い(おそらく3.3~3.5もしくはそれをゆうに超えている、文系学部は分かりません)です。一方でヨーロッパを志望する場合は多少バラバラになる傾向になります。北欧に理工学部から進学する人のサンプル数が少ないので体感、推測の域を超えませんが北欧の地域はかなり人気な傾向にあるので依然GPAが大事だと思う一方で、西欧・東欧はGPAが3.0前後で戦えます。

ただしこれで勘違いをしてはいけないのは、留学先を選ぶときの基準はアメリカ、イギリス>>ヨーロッパという誤解です。GPAが高い人がアメリカやイギリスに行くこととアメリカとイギリスが留学先として優れているかはまったく見当違いの議論です。ネットから得られる日本人の留学体験記はアメリカやイギリスが非常に多くそこでバイアスを感じてしまうのも原因だと思いますが、留学をどのような目的で行うのか、またそれに応じて大学をどのように選ぶのかという考えを持ちましょう。留学先で住むというのはどういうことなのか、生活費や物価、留学生への対応が手厚いのか、あとはその国の人々の国民性なども考慮すると良いかと思います。理工学部生に関してはダブルディグリーで慶應と関係のある大学を選ぶのも良いかと思います(私がアーヘン工科大学を選んだのはこれが一つの理由です)。

外国語

私はドイツで留学をしていますが正直ドイツ語は必要ありません。彼らドイツ人は私が想定していたよりも流暢に英語を話します。たまにお年を召したスーパーの店員さんでさえ英語を使える場合があります。英語を話すことは(国際的な大学で学ぶ彼らにとっては)当たり前であるのでしょう。

また、ある中国の大学で留学している友人が中国語を準備していたのに英語での授業やガイダンスが多かったということを言っていました。ここから導けることとしては、留学生を受け入れる体制のあるような大学(つまりここでは慶應の協定校のことを指しています)では英語を使うことは必須になるということです。その国の語学を学ぶこと自体はとても重要だと思いますが、少し厳しくいうと英語を全く話せないのは論外という認識でいた方が良いかと思われます。

留学前の章で話した通り元々1年早く留学する予定だったので学部1年の夏にIELTSを受験し、トップスコアではないものの英語圏の大学含めて体感8,9割の大学における英語の基準をクリアをしていました。学部2年で再度出願準備するときにもう一度受け直してスコアUPをしようかとも検討しましたが、やる気が湧かなかったので受検は見送りました。

留学に来てからは数学の授業等で英語の専門用語を使われること(例えば同次座標系というような日本語ですら大学で習う単語をhomogeneous coodinate systemと言われても分からないですよね)と、グループで話し合うときに数学の事象を説明すること(これはスピーキングの部分で私の能力が多少不足していることが原因かもしれません)を除いて苦労はしていません。ただ、私には小学校高学年から中学校にかけて海外に滞在していた経験があるため、一貫して日本で生活してきた方の場合、英語能力の問題はより深刻になってくるかもしれません。インターナショナルスクールではなく日本人学校に通っていたのでいわゆるアメリカ帰りの帰国子女の子達に比べればかなり拙いですが、それでも下駄を履いていることは否めません。僭越ながらこの点に留意していただいたほうが良いかもしれません。英語に関しては学部1年夏に1-2ヶ月ほどIELTSを勉強してからは大学の英語の授業も楽という理由で上級クラスは選びませんでしたし、たまにThe Guardianを読んだりNetflixを英語音声のみ字幕なしで見るというような自発的・突発的な英語学習を除いて何もしていません。これは明らかに英語圏での生活経験が影響しているかと思います。ちなみに、話を聞く限りでは、理工学部の英語上級クラスには留学志望の学生が多く含まれているので、上級クラスを履修することで後々留学に行くであろう人たちと関わる機会を得ることができるかと思います。逆に、英語の心配がなければわざわざ上級クラスを履修する必要はないかもしれません。負担が大きいですし。

ドイツ語に関しても何もやる気がわかなかったので事前に勉強はせずに行きました。参考までに言うと第二外国語はフランス語です。留学をしている今はアーヘン工科大学のドイツ語講座を受講してそこで学習をしています。ただし1セメスターに200€(約32000円)かかることに注意しましょう。

志望理由と留学計画書

志望理由と留学計画書はかなり丁寧に書くに越したことはないと思います。"慶應交換留学 書類"などと検索をかけると過去の先輩が書類をそのまま貼っていたりする場合があります。私の場合は留学報告書を読んで理工学部の同じ学科の先輩にメールをしてコンタクトをとり、ありがたいことに添削までしていただきました。添削自体を目的に連絡するのはあまり宜しくはないと思いますが、そもそも交換留学の選考基準が明確に示されていないことを勘案すると、交換留学の選考を突破した先輩方に見てもらうのはかなり有効だと思います。軽く意識するべき内容について触れておくと、過去・留学中・留学後の3つについて自分が理想とする人物像を想像しながら書くと良いと思います。また、最近はKEPRO?みたいな団体がそこらへんを詳しく説明しているとも聞いているのでそういう団体にコンタクトを取るのもアリかと思われます。

留学が決まってから

そんなこんなで学部2年の夏にやっと出願が終わり私はかなりホッとしたのを覚えています。留学前の章で書いた通り、おそらく1度しかない慶應義塾大学での学部生活の中で目標とした留学の出願がやっと終わったのは私としては一つの締めくくりとなったのでしょう。"出願できたしもう留学行けなくてもいいや"という1周回って意味がわからない考えにまで到達するくらい解放された気分でした。1ヶ月か2ヶ月後に選考発表があり、無事にアーヘン工科大学への派遣が発表されたときは正直に嬉しかったです。

留学が決まってから最初にするべきこととしては国際センターが主催する留学生向けのガイダンス(私の代はオンラインzoom)で交友関係をしっかり築くということが挙げられます。また、学部学科問わず留学に行く予定の友人をなるべく多く作りましょう。実際に留学生向けのガイダンスで連絡先を交換した同じ大学に行くお二方には留学に行く前から留学中まで言葉に表せないくらい助けていただいているのでそれだけは未来の後輩に向けての助言としてここに記しておきます。

留学が決まった学部2年の私は次に何をしようかといろいろ考えていましたが結局専攻分野の勉強をする以外は特に何もしていませんでした。学部2年秋は15-17単位くらい?しか残っておらず日吉の科目を多くとっても矢上に持ち越すこともできないのでかなり多くの時間があったのを覚えています。コロナも徐々に収束し、大学も週休5日(他学科は知りませんが、1年でフル単をして2年の春で選択必修をほとんど取り切れば可能だと思います、あと今は分かりませんがオンラインがあれば尚更です)とかそのレベルだったので旅行に行ったりのんびりとしていたと思います。

さて問題は学部3年です。先述した通り私は遡及進級を希望していたのと6月の大学院入学試験に出願する予定のため学部3年春学期でかなりの授業を取る必要がありました。これは他学科の交換留学に行く友人も同じでしたのでこれらを希望する場合は把握しておきましょう。

具体的には、3年の選択必修はネットワーク工学以外のすべてと学部4年相当の自然言語処理、データモデリングそして矢上の般教8単位の計33単位を履修しました。ちなみにこれだけ取っても遡及進級と大学院出願の条件は満たせていません。交換留学生は単位交換制度があるため、留学先で単位を獲得して申請を出して認められるとようやくこれらを満たします。

あとは勘違いしてほしくないので言及しておきますが、遡及進級を希望する場合でもここまで取らなくても良い場合があります。単位交換制度を使って留学先の単位を交換すれば問題ないからです。ただ私の場合は、留学先で単位をしっかり取れるか不安だったことと、留学先の単位が必ず交換できるのかの保証がなかったため(これは私の推測でなく留学上の制度としてそうされている)なるべく慶應で取り切ってしまいたかったという理由からです。

遡及進級を希望せずに留学留年をしても良いという場合は普通に単位を取るだけで良いかと思います。

留学中の今

さて留学中の今ですが、楽しくて仕方がないです。履修している授業はMachine Learning, Introduction to Artificial Intelligence, Basic Techniques in Computer Graphics, German Language Courseの4つを主に履修しており、Machine Learningに関してはPRMLとよばれる機械学習を勉強している人なら誰でも知っている名著をもとに授業が進められかなり興味深いです。Introduction to Aritificial IntelligenceはDeep Learningというよりは探索やロボティックス等が主題で情報工学の大切な分野を扱っています。Computer Graphicsの授業は数学を追う授業のため少し苦労していますが、これまで数学に向き合ってこなかった結果なので頑張っています。

ここでアーヘン工科大学の制度(もしかしたらドイツ全般がそうだったりするかもしれません)を一つ紹介しておくと、授業の登録とテストの登録の二つがあることが挙げられます。成績表に記載されるのはテストの登録をした科目のみですので、テストを受ける余裕はなさそうだけど授業の教材はもらっておきたいというようなケースにぴったりの制度です。特に我々交換留学生の場合は1年間しかいられないので履修登録だけたくさんしておくという人がたくさんいます。単位が欲しい場合はテストの登録もした上でテストに合格すれば良いわけです。

留学中は基本的に何をしてもいいと思います。何かを言ってくる人は誰もいませんし、留学先で殻を破って新たなチャレンジをするのもいいですし、ずっと心に秘めていた何かを実現するために動いてもいいと思います。また、留学に来ている一部の台湾人や韓国人はここぞとばかりに旅行に行っています。彼らはドイツに留学に来ているのに関わらずドイツにいない時間の方が長いのではないかと思うくらい旅行しています。これも個人の自由ですし、別にいいのかと思います。私の場合はそこまで旅行はしないもののヨーロッパの地理的中心にいることを生かして留学中の3ヶ月の内に5カ国を回っており、好きなサッカーチームの現地観戦を目的にイギリスに行くことも決まっていますし、来年行われるパリオリンピックのチケットも購入しています。留学は勉強することだけが重要なわけではないのでヨーロッパでその国のひとたちと似たような価値観を持ってゆったり過ごすという選択をすることもできます。

最後に

最後に主張しておきたいことがあります。あまり主語が大きい文をつかいたくないのですがご了承ください。

それは、 日本人は留学をしよう ということです。

先進国とされている国の中で日本人だけは異様に留学する人が少ないです。東アジアの中国、韓国、台湾、日本の4カ国に絞るとそれは違いとして顕著に現れます。人口が多い中国人が日本人よりもたくさん留学することは当然ですが、例えばドイツへの留学生に絞ると(出典先)アジアからの学生は中国(32000人)、韓国(5140人)がランクインしており日本は圏外です。韓国の人口は日本の約半分であることを考えると異常であることが伝わると思います。また、体感では台湾の学生も多いです。統計的な裏付けがあるわけではないのですが信憑性は担保できませんが日本人よりも台湾人の方が多いと思います。台湾の人口は日本の五分の一です、、、、

そのような意味で日本人という存在はおそらく貴重です。イギリスだったりアメリカのような国に行けば日本人も比較的多くいるでしょうが、小さい町に行ったりすると日本人を見ることはそうそうありません。アーヘン工科大学に在学している日本好きの子からよく聞くのは、大学生活を通してこんなに日本人に会ったのは初めてだと言われたことです。アーヘン工科大学に来ている日本人は慶應の他に東工大と大阪大、立命館の方たちがいますがたまたまなのか今年は多いようで驚いていました。アニメや漫画だったりの影響で、日本が本当に好きという外国の方はたくさんいます(この前旅行に行ったときに日本語を話していただけで話しかけてくれた人が数組いた)。東アジアの他の地域の人が彼らの出身地を言っただけで飛び跳ねて喜ばれることはおそらくありませんが、"日本出身です"と言うだけで"日本人に会いたかったんだよ!!!"と飛び跳ねて喜ばれることはなんとあるんですね、それも一回ではありません。

また、日本人は英語を話せないと言われがちですがおそらくそれは正しいです。なぜならドイツに住んでいる子達から何回か"正直日本人の英語はあまり良くない"と言われたことがあるからです。そこで英語の教育方法について説明したときに、日本人はSpeakingの授業をほとんどしない、教員によっては英語を話せないということを説明したところドイツ人や台湾人に???という顔をされたこともあります(私は公立の中学校に通っていた経験がありますが、正直当時の時点で私の方が一部の教員の方よりも英語を話せていたと思います)。母国語が英語でないドイツでさえ英語話者は多いのでこれは問題と言えるのではないでしょうか。日本に旅行に行きたいと言う(英語非ネイティブの)ドイツ人たちは、少なくとも Tokyoに住む若者は英語くらい話せる と思いこんでいますよ。

色々話がそれましたが私の留学するまでの流れと留学中の今話せることはここまでです。留学をすることが正義と主張する気はさらさらありませんが、留学をするという選択肢を考えてみるのはどうでしょうか。

  • 日本で住むという選択肢しか持っていない(世界をそもそも見ていない)
  • 世界と比較した上で日本で過ごす選択肢を取る

というのは日本で過ごしていると言う部分を切り取れば同じですが、実際は全く別物です。世界を見てみるという選択肢を一度とってみましょう。